指名手配中だった男性が、潜伏先のアパートで遺体となって発見された。
室内にはビデオテープが山積みにされ、証言者のスケッチには「50本くらいある」と書き込まれている。
残されていたビデオテープは
すべてが同じ内容だった
1999.12.29 / PRIVATE RECORD
FAKE DOCUMENTARY “Q” / 記録映像再検証
『RIEKO』は、失踪した歌手を扱った単話作品に見える。
謎の指名手配犯の部屋から見つかった、50本近くのビデオテープ。
映像の中でRIEKOは、音楽活動のシーンとプライベートなシーンとが映っていた。しかしそれらは時系列がぐちゃぐちゃに編集されていた。
時系列順にすることで、何か読み取れるのだろうか?
また、字幕や音声が極端に乱れる場面があった。本来の字幕や音声を解読することは出来ないのだろうか?
そうして浮かび上がる、一人の男。
彼はいったい何者で、何がしたかったのだろうか?
男の正体と真意に迫る。
作品が最初に示すのは、RIEKOの失踪ではなく、十八年近く後に見つかった男の部屋だ。男の罪もRIEKOとの関係も語られない。ただ、部屋に残されたテープの量だけが異常さを伝えている。

指名手配中だった男性が、潜伏先のアパートで遺体となって発見された。
室内にはビデオテープが山積みにされ、証言者のスケッチには「50本くらいある」と書き込まれている。
残されていたビデオテープは
すべてが同じ内容だった
なぜ、一人の男が同じ内容のテープを50本近く所持していたのか。
再生中の映像は年代を何度も行き来する。編集者の意図を想像する前に、画面へ焼き付いた日付だけを拾ってみる。順番を戻したとき、ただの乱雑な素材集とは違う形が現れるだろうか。
二つの記録は、それぞれの内部では日付が前へ進む。テープの再生順では、その二系列が交互に差し込まれていた。
私生活のRIEKOと、世間へ売り出されていくRIEKO。編集者はなぜ、この二つを交互に見せたのか。日付順でまとまった私的映像には、撮られることを知っているRIEKOがいる。では、レンズの反対側にいた人物は、彼女からどれほど近い場所にいたのだろう。



真正面からの手持ち撮影。室内でもRIEKOはカメラを警戒せず、演奏後には撮影者と言葉を交わす。
盗撮者ではない。関係の名前は分からないが、生活の内側にいた人物である。この人物は、RIEKOが有名になってから近づいたファンではない。少なくとも1999年1月から、彼女の日常と歌を記録していた。
歌詞そのものは耳で聞き取れる。ここで問題になるのは「何を歌ったか」ではなく、なぜ同じ言葉を示す字幕だけが壊れた姿で残っているのか、そして本当に元へ戻せるのかだ。

RIEKOがアコースティックギターを弾き、穏やかなメロディーで歌っている。
縺薙l縺悟ヵ縺後M譁ー蜿・蜿励↓…
「もっとうまくやってよ」
「バレてんだよ? バカじゃない?」
「気づかなければ私、幸せなままいられたのに」
この場面で復元された三行は、RIEKOが歌っている言葉と一致した。字幕は失われておらず、別の文字コードで読まれた状態だった。
読めなくされているが、消されてはいない。通常の見方では届かない形で、同じ言葉が残っていた。
私的映像を撮った人物、映像を編集した人物、同じ内容を増やした人物、2018年まで持っていた人物。四人いたと考えることもできる。しかし別人なら、原本や完成テープが誰かへ渡った経路も必要になる。
撮影者デビュー前の私的空間を撮影した。
編集者私的映像と公的映像を一本に組んだ。
複製者同じ内容のテープを50本近く残した。
所持者指名手配中、潜伏先でテープを所持した。
モデルを選ぶと、資料が移動した経路を表示します。
人物を一人にまとめるのは、ドラマチックだからではない。作中に登場しない協力者や受け渡しを追加せず、映像の来歴を説明できるからだ。
撮影者が親しい人物だったとして、それだけでは恨みの理由にならない。私的映像、歌の言葉、デビュー後の説明を同じ場所へ置くと、その人物が公のRIEKO像でどう扱われたかを比べられる。

デビュー前から、RIEKOを生活の内側で撮っていた人物がいる。

「君はもういない」「僕のケイタイ鳴らない」。男性一人称と喪失が反復する。

テレビではデモを送った人物を「友人」と説明し、隣には川島英治が座る。
RIEKOの活動記録が途絶えた2001年。その日付付き映像の最後に置かれているのが、この浴室だ。
撮影者以外の、人のような像。画面から身元や状態は確定できない。
何が起きたかは映っていない。ただ、編集者はこの場面を記録の終端に選んだ。日付を戻すと私的記録と公的記録が分かれ、字幕を戻すと壊れた文字の中に同じ言葉が残っていた。人物の経路を最少人数で結ぶと、撮影者と2018年の男が重なる。ここから先は、それらを一人の行動としてつないだ本考察の仮説です。
男はRIEKOのデビュー前から私生活を撮影し、音楽活動を支えていた。
デビュー後、川島が隣に座る公式の画面で、男の存在は「友人」へ縮小された。
男は自分が知るRIEKOと、世間へ示されたRIEKOを交互に並べた。
時系列を崩し、文字と音を乱したテープを50本近く残した。
シリーズに反復する大量複製を儀式の工程と読むなら、これは保存ではなく、RIEKOと川島へ向けた復讐だった。
男が川島を殺害したこと、RIEKOが儀式によって消息を絶ったこと、作詞者が男だったこと。これらは全体をつなぐ強い読みだが、映像だけで確定はできない。
子ども、堕胎、枕営業をデビュー条件として読む余地はある。ただし直接の証拠はなく、本考察の中心には置かない。
RIEKOの活動記録が途絶える前に、まず彼女のそばにいた男が、公の物語から消えていた。
2018年、男は指名手配犯として遺体で発見される。その部屋に残った50本近くのテープだけが、私的なRIEKOと、自分が消された痕跡を繰り返していた。
彼は、何を終わらせるために同じ記録を増やし続けたのか。 テープを巻き戻す